忘れることを笑う

90歳になるばあ様がいる。車を運転し、何件もの塾を駆け回り、子供たちに愛された「先生」。介護ボランティアにも精を出し、身の回りの出来事をブログに書いて投稿するような素敵ばあ様。融通の利かない自分優先なご主人を支えてきた。80歳を越えてから物忘れが目立ち、パソコン作業も順序がわからんようになってきた。それでも、自分優先のご主人は変わらずで、ストレスMax、体中に湿疹が出た。

そんなこんなで緊急入所してからさあ、もう5年くらいになるんだなぁ。もの忘れるスピードはどんどん速くなってるし娘の名前もわからん時もある感じ。実はこの度、めでたくお孫の一人が結婚する。「ばあばには式に来てほしい」というお孫ちゃんの気持ちを受けて。娘さんの強い希望もあって付き添い二人で結婚式に行くことになった。

まずは、「お洋服を選ぶの巻」もし結婚式に行くならどれがいい?どれが好き?何色?…四苦八苦の末!決まったー!サイズを測ってお盆前に届いた!やったー!

試着中!

素敵なスーツを選びました、でしょ。本人は全く覚えてないし、なんで試着してるかもわからんけどみんなが着てみてっていうから着てみただけ、「なんなんだろね!」とのこと。

そして、今日。結婚するお孫ちゃんの名前を教え、結婚式行くんだよ。「それいつ?」来月ね、結婚式ね。「それって何日?」「いつのこと?」「初めて聞いた。いつ?」「それって何月何日なの?」と日にち質問を繰り返す。10回目くらいまでは普通に〇月〇日だよ、と返し続けてたけど、周りのみんなが覚えちゃって「〇月〇日やないの。忘れたんか?」と言っちゃうくらい。笑

それでも「いつ?」「それっていつ行くの?」は果てしなく続き、話が先に進まないので。笑 「おいコラ!もう300回くらい日にち言ってるわ!!!!!あと何百回聞く気や‼‼‼日にちだけで日が暮れるわ!」と笑ったら全員が笑った。当の本人は涙流して大笑いだ。

福祉の教本や、介護福祉士の試験問題では決してあり得ない もしかしたら認知症の人に対する侮蔑的発言かもしれん。だって私は ばあ様の「忘れる事」を責めているように聞こえる、やろ?もしくは、忘れることを面白がっているように聞こえる?

でも‼‼‼‼私はこれが「信頼」だと思ってる。昨日今日知り合った人には絶対言わないよ、そりゃあもちろん。でも私とばあ様は大丈夫。悲しい思いもさせないし、笑いものにもしない自信がある。けんかになったって仲直りできるし。だって、大好きだし!一緒に暮らしてるこの関係をなめんなよ!へへへ。

私たちの関係は、上下ができやすいと言われていて。される方とする方、させていただく方としていただく方、させてあげる方としてあげる方…強者と弱者 みたいな、ね。

でも、親子でも、兄弟姉妹でも、親友でも、愛してる人でも、喧嘩もするし 悲しい思いもするし、腹も立つし、泣くし泣かされるし、ね。大事なのはその後。その後、労わる気持ち。大切に思う気持ち。

だからどんなに早く忘れたっていい。私をわからなくなってもいい。家族の名前や顔を忘れてもいい。私たちが覚えていればいい。笑って、笑って、次に行こう。あなたの世界に行こう。

…でね、結局 結婚式の5日前に結婚式の話をしようってことになった。「忘れるんだってば。謝らないわよ。こんなに早く言ってくるあなたが悪いんだからね。」

ごもっともです‼‼‼私が悪いってことで了解です。笑 楽しかった!

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