夢の実現Ⅱ
働きながら勉強する彼らは、学校の寮で二人で一部屋、小さな部屋で枕を並べています。午前のクラスの子は、昼から来て働き、午後のクラスは午前働きます。土日は一日働き宿題を夜中にします。なんて過酷な苦学生!
私たちは、ばあちゃんたちに話すようにゆっくり丁寧に大きな声で話しました。大阪弁です、もちろん!・・すると・・
変な大阪弁ばっかり覚える。職員も変な大阪弁やエッチな言葉ばっかり教える。
「あかんやん」「せやねん」「マジで!」「なんでやねん」「おじい」「おばあ」「食べてや」「あかんあかん」「ひんにゅう」「すけべ」などなど。そこに素敵な関係が生まれ始めた。簡単な言葉でゆっくりと教えるほうも教え方を考えて丁寧になる。自分自身の介助ももちろん丁寧になる。私たちは人手不足を解消できる かもしれないと一生懸命日本を教える。二人はどんどん成長しスポンジのような頭で吸収していく。大阪弁の中で暮らし、大阪弁が理解できるようになってきた。どんな料理にも唐辛子をかけて驚かせるが、日本のお料理が大好きだという。女子職員が介助しているとサッと見に来て「大丈夫?できる?」って聞く。レディがファーストの国なんだな。ご飯は床に座って手で食べる国で、裏の庭にはフクロウやコブラやタランチュラがいて、梅雨と夏が繰り返し訪れる気候。公園にはパイナップルやバナナがたわわに実り 取って食べても問題ない、という。イスラム教徒の彼らは一日に何度もお祈りする。手足と顔をきれいに洗って祈る。出逢って3ヶ月。彼らはよく喋るようになった。Google翻訳先生の力も借りなくなってきた。 今の仕事は楽しいですか?という質問のレポートにリキはこう答えました。「ここで働くことは私にとって夢の実現でした。」バラは「仕事は楽しいです。歳を取るまで続けたいです。」
一生懸命言葉を覚え、仕事を覚え、意思を伝え、人と交わる努力をする。相手を知ろうと心を込めて伝え聞いて感謝する。この仕事の始まりはここにあるんだろうと改めて思う事が出来た。彼らのおかげなんだと思う。 日本語と日々の生活を当たり前に乱雑に扱っていた私は、わかりやすい丁寧な日本語と利用者個々の本質を大切にすることを思い出した。三か月で早出や遅出を始めた彼らは、フロアに一人になっても、誰にも指示されなくても じいちゃんばあちゃんと遊んでいるし一緒にコーヒーを飲んでいる。必要とあればトイレにも誘うし、お風呂の介助もする。体調が悪い利用者を気にして夜にLINEをくれることもある。最高に優しいこの二人が、いっちょまえの介護士になる日が私にとっても「夢の実現」なんだろうなぁ。