伝心➊
ここに一人の婆様がいる。
何をするのも面倒だし、歩けるけど歩かないし、ついさっき起こったことも食べたことも忘れちゃう。でも信念はある。食べたくないものは食べないし飲みたくないものは飲まない。食べたくない時、飲みたくない時はどんなに進められても‥嫌だ。お風呂も同じ。面倒臭がりやさんだから服脱ぐのがもう‥嫌だ。だからってずっと飲まず食わずはほっとけないし、お風呂だって何日も入らんわけにはいかん。…で、職員はあれこれやってみるんだけどなかなか手強い。お水の入ったコップとお茶の入ったお湯のみを前に「部屋に帰りたい」と言う婆様と、「お茶とお水飲まないと帰さない」という職員の攻防。もちろんわかってる。脱水になったらしんどいしちゃんと飲んでほしいし だから戦っている。
でも、チャンネルが一個だ。「お茶飲んだら帰るよ~」「このジュース飲んだらね」ばっかり。聞いててしんどい。違う方法で飲んでくれるように持っていけないだろか?飲め、飲め以外の言葉はないか?暑いけどちょっとだけ外に出てみるとか?部屋で二人で話してみるとか?おやつの時間じゃなくてもおやつ食べてみるとか?かき氷とか?スイカとか?オロナミンCで乾杯するとか?チャンネルを増やせば答えも増える。できることは限りなく増やせるのに…なんで一個だけをやり続けるんだろ?‥‥もちろん全員が同じことを繰り返してんじゃないよ。でも、日々自分も含めて今日を振り返って違ったかな、他の方法を考えようって、何か良い策はあるかなって思って悩んで一人前でしょ。また明日も同じことをしてはいけない。
私は、みんなにいろんな数あるチャンネルの中から その人に一番添うと思った彩のチャンネルを毎日毎日の楽しみとして提供できるプロ介護士であってほしい。同じことを突きつけ続けるのは私でなくてもあなたでなくてもできるからね。
私と婆様の一対一は私でないといけない時間にしたいんだよね。それが私がここにいる意味じゃない?