伝心❷

ここにも一人の婆様がいる。
寒さ暑さに敏感で、人の言動にも過敏だ。
彼女が寒いと言えばいくら夏真っ盛りでも暖房を入れてと言う。毎晩言う。
毛布をかぶって汗をぶるぶるかいても「寒い」。汗で寒いんかな?
人の話はなんでも聞こえちゃう。なんでも私のことかと思って不安になる。なんでも大切に仕舞い過ぎて無くしちゃう。誰かに取られたんかと疑心暗鬼になる。そこで、やっつけないと‼‼って奮い立つ。
自分の中で物語はできているから責めたって、違うよって言ったってなかなか心の奥底までは信じられない。
話を聞いてる私のことを想って「もうええよ」「そうやな、だいじょうぶやな」と笑ってくれるけど心の中はモヤモヤ深い。

この婆様は、私たちの困った顔や「またかよ」って顔色を見逃さない。こんなに一生懸命伝えてるのに困ってるのになんで片手間な返事するん?って思ってる。だんだん私達にも腹が立つ。奥歯噛みしめて我慢してる姿を私も見逃さん。

心を伝えあうのは本当に難しい。婆様方が忘れちゃう認知症だという事を除いてもなかなか本心には触れられない。これを読んでくださっているご家族はお怒りかもしれないけど、母は、父は、家族にだって本心をぶちまけないのかもしれない。ずっと一緒に暮らしていたって「親」という威厳の上にあってなかなか辛い悲しいきつい「何でよ‼‼‼‼‼何なんよ‼‼‼」を正直に表せないのに、ましてわざわざ来てくれた家族に怒ったり泣いたりわめいたり 物わかりの悪い自分を見せる人の方が少ない。おしっこちびっちゃったこと、どこに置いたか忘れちゃったこと、枕の中にティッシュいっぱい入ってること、靴下見つけられないこと‥つまらんことかもだけど知られたくなんかないし笑われたくないし叱られたくないよ。「大丈夫よ」って慰められるのも「なにやってんのよ」ってスルーされるのも、どれも嫌なんだよ。知られたくない、今まで通りの母でいたい。笑っていたいよ。来てくれてうれしいからさ。だから家族には本心がわからないし、家族だから伝えないこともいっぱいある、見せたくない顔もあるんだよ。

まず私らがやるべきことは、誠意をもってちゃんと知り合う事。イライラしたり焦っている時はちょっとその場を離れて一息つくこと。絶対に安全で正解のカードなんかない。今日のあなたが正解なわけでもない。同じことを繰り返さず‥明日は今日より上の安心を目指そうってね。そして、見せたくない「顔」は見ないふりを上手にしよう。人には伝えないでいいことだってあるんだよ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です