伝心❸

ここにもまた一人の婆様がいる。
じっとしていられない。どうしたらいいの?帰るにはどうするの?泊ったことなんかないわ。主人はどこ?わたしはどうしてここにいるの?
いつまでいたらいいの?食べるものがないわ。‥‥ずっと職員の後をついて回って質問攻めにする。
職員は、「ご主人は東京に出張しています。出張中お家に一人だと心配だからってご主人がここにいてねっておっしゃったんですよ。ここでみんなとご飯食べてご主人を待ちましょう。」と来る日も来る日も言い続けた。毎日聞かれるから、毎日同じことを繰り返したら納得されたから?

ある日「主人は?」といつものように聞かれたんで「出張で…」と職員が言い始めたら「東京やね、いつ帰ってくんの?」と聞いてきた。≪東京出張≫が記憶に残った。みんなが同じことを言って落ち着いてもらおうとするのはかえって、逆に変にインプット変換されてんのかな?どういってあげるのが正解かはないでしょ。認知症の人に嘘つくな、正直に同じ目線で対応して…なんてきれいごと言ってたら毎日毎日皆をものすごく傷つけるだけだからね。例えばこの場合「ご主人はお家にいますが、あなたの面倒は見れないのです。あなたはここに入所しました。お家には帰ることはできません」…となりますな。どんなに言葉を変えようが「帰れない」ことに変わりはないもんね。でも言えない。それを言い続けたら怒るよね、泣くよね、恨むよね‥そして忘れて嫌な気持ちだけが残って、また泣いて起こって恨んで、忘れる。今よりもっと不穏が続き夜も寝なくなる未来しか見えん。今日この時を生きている認知症の方は「今」を平和に過ごすことが大事。5分後や2時間後、明日や1週間後、1か月後、1年後のことなんてどうだっていいから。知らんから!大事なのは単純に「今この時」だから。だから、嘘は大事。ホントの顔して嘘もつけない大人はめいの家にはいらんから。

だからチャンネルを、引き出しを、たくさん持って挑みたい。そんな嘘も企みもその人の未来の笑顔につながるのならなんだってするさ。

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