めいの家の大家さん 和仁さん。

17年前、和仁さんは75歳。素敵なスカーフを巻いて、ジャケットと同じ色の山高帽を被って現れた。当時私の勤めていた特別養護老人ホームに、ね。バブルの真っただ中に建てた独身寮が借り手がなくてお化け屋敷みたいになってるって。何かに役立てられないかなって‥っていうか誰か借りてよってね。その時の施設長と相談して見に来たのがここ「めいの家」。確かにお化け屋敷みたいにぼろ家で草ぼうぼうで、あちこち破れてて、本当に怖かったよ。そのぼろ家を眺めながら、私はウキウキした。楽しい事がいっぱい起こる予感がした。

そして、めいの家物語が始まるんだけどね、この物語に絶対に欠かせないのが大家さん和仁さん。じいちゃんは大きな家に住んでいる。大きな庭と古い大きな立派な柱のある天井の高いすごい家に小さな可愛い奥様と暮らしている。庭には、柿やビワや、畑には白菜大根人参冬瓜胡瓜小豆南瓜茄子‥いろんなもの育てている。だけど節約家でもったいない事は絶対しない。ちょっとケチんぼなとこある。めいの家は古い建物だから、何回も事務所に水降って来たし、水道出なくなるし、壁はがれるし、お湯漏れて床暖房になるし‥その度来てくれるのは和仁さん。出来る限り自分で直してくれる。コンクリートとかコネてペタペタ修理。勝手に草抜きしてくれるし、勝手に入って来てデイでコーヒー淹れて飲んでたりする。時々お家に行って大きな立派な応接間でコーヒーを頂き世間話をする。和仁さんは親指の付け根をもう一方の手ですりすりしながらしゃべる癖がある。その手を見ながら奥さんの入れてくれた美味しいお茶を頂く。その和仁さんは90歳を超えた。今も自転車で畑の野菜を届けてくれる。渋柿ができたよ、干し柿にするんだろ、取りにおいでと電話をくれる。ガスが出ないーとか電話したらすぐに来て見てくれる。「来てはる皆さんが困りはるやろう」と大急ぎしてくれる。

この夏、和仁さんは来なかった。一度も来なかった。ちょっと心配しつつ、意を決して今日電話したら、息子さんが「家のリフォームに一生懸命で、まだまだ私は頼りないらしくて自分で全部やってますわ、元気元気ですよ。」って笑ってた。和仁さんらしい。よかった。でも、何でも自分でやってたのに、どんどん息子に渡しちゃって。どんどん息子ちゃんがしっかりしちゃって。嬉しくも悲しくもあるのかなぁって思ってる。

息子ちゃんに「たまにはコーヒー飲みに来てくれないと心配するっ」って伝えてって言って電話を切った。【世代交代】‥必ずやってくる、ね。でも世代交代しても一緒にコーヒー飲んで風に吹かれて空を見上げていようと思う。めいの家が今あるのは和仁さんに会えたからだからね。

ね、和仁さん もうすぐ柿がなるねぇ。楽しみに待ってる!