13年‥
2011年9月16日、その婆は90歳でやって来た。
笑顔の可愛い控えめな娘さんとは大違い「何でこんなとこ連れて来られて‥」と怖い顔してスパスパ タバコを吸う。
「ねぇちゃん、なんか酒ないんか」と皮肉に笑う。「なんもないんやな、何すんねん、狭いとこ閉じ込めて。さっさと殺さんかい!」と笑い 頂き物のウイスキーを職員相手に一本開けた。
職員はべろべろで‥婆は全く平気。あーぁ…。
それからの毎日は‥一日ひと箱のたばこを吸って、夕食時にはいいちこのお湯割りを飲む。誕生日には男性職員を連れて飲み屋へ。ぶりのお刺身一切れで焼酎3杯飲む猛者だから。神戸の元町で40年、スナックのママしてただけのことあるって。笑
100歳を迎えるのを夢だと言い続け、管に繋がれてでも、人工呼吸器でも、一日でも長く生きたいと公言してきた婆は今103歳。そろそろいろんな事が出来なくなってきた。が…しかし!さっき!「起きるかい?」って聞いたら「ごはん?」って か細く言うからさぁ車椅子に乗っけて髪をといて結んで「トイレ」って言うからさぁトイレに行ったら違うって言うし、サツマイモ食べるかって聞いたら食べるって言うからサツマイモのムース口に入れたら吐き出すし…13年間振り回されてんだわ。笑っちゃうでしょうよ、ねぇ。
痩せて小さくなった103歳の婆は、それでもなお私の顔見て笑ってくれる。手を差し出すとすごい力で握ってくれる。いいちこあるか?と舌を出す。いいちこ と いちこが似てたから私の名前覚えてくれて「いちこさん、いいちこは?」「たばこ一本やろか?吸い、吸い。」ってね、誰もいないフロアで二人で隠れて内緒でタバコ吸ったもんだ。夕食の時お湯のみに入ったいいちこをこれまたばれないように二人で飲んだ。校則違反してるヤンキーみたい‥ドキドキやったわ。
今はね、13年付き合ったこの婆がいつ逝ってもいいように、安心して逝けるように、そしてできればその時一人でないように、と思うだけで、ね。私としては思い残すことはこれっぽっちもないから。
5000回以上は聞いた「バナナは卵三個分の栄養があるんやから食べとかなあかんで」笑 口癖!もう言わなくなった…。
ここに、まだまだ何も諦めてない103歳がいます。私達も諦めないで生きましょう。
13年一緒にいるから写真はいっぱい!腹立つくらい写真写りいいのよ。いい顔するの!楽しそうなの!だから、生きる!きっとね。