ずっとかわらない人 井上拓也

身長169.5㎝、体重53㎏。拓ちゃんは夏バテする。
夏バテすると体重が45㎏くらいになる。
ブカブカのSサイズのジーンズをどうにかこうにかベルトでくくり付けている。
一時期、あまりに痩せてふらふらしているので何食べてんの?と聞くと「何も食べる気にならなくて・・そうめんくらいかなぁ」と言うので拓ちゃんの下駄箱には毎日高カロリーなご飯食べなくても平気でいられるジュースが職員の愛情と共に入っていたし、拓ちゃんのお茶碗はどんぶりになった。愛されてんなぁ。

めいの家にやって来た頃のこと、元気で厳しいばあさまが大勢暮らしていて、いつの時代もそうだけど新しい職員は洗礼を受ける。
お箸の向きから、ご飯のつぎ方、お風呂の誘い方、呼び方、洗濯物の返し方、お薬の渡し方、あらゆることに文句を言いここでの生活の仕方を教えられる。
中には、いじめですか?と思うようなひどい仕打ちもあり何もかも「触らんといて!汚い!」「顔見てたら食欲無くなる」「向こう行け!」など言われることもある。
ここ踏ん張りどころの洗礼で、どんな人もそれを受ける。
自分より新しいか、古いか、それは大切な順番なんだろうなぁ。
で、拓ちゃんはかなりこっぴどくやられた。
ついて歩くことも許されず、体に触ったりしたら大声を出される。
無視され、舌打ちされ、見ているこっちが折れた。
もちろんその現場を見つけたらばあさま方に話をするのだが、敵もあっぱれ!なかなか尻尾を出さないのだ。ちゃんと古い職員のいない時を見計らう。
三日目の仕事終わり、しんどいだろうと、きっと心がずたずたに折れているだろうと声を掛けた。「大丈夫?」
「はい、たのしいです!大丈夫です。」
いやいや、たのしいはずないだろって・・!
洗礼の数々を聞いてみるが拓ちゃんは。
「えっ?
ええっ?気づきませんでした。そうなんですかぁ??」と言う。
相当鈍いのか、大物なのか、今も昔も変わった男で、
大概のことは「いいですよ」と言う。
人がいいのか鈍感なのか、運が悪いのかいいのかわからない。
バイク買う度自分ちの駐輪場で盗まれて、携帯とお財布月一落とす、でも出てくる。
不思議な男。
今も昔も、じいちゃんばあちゃんに絶対に無理強いしない。
相手が気が済むまで話を聞く。こっちのイライラなんてお構いなし。
そこがこの男の大物なところ。
そして嫌われない。いじられ続けている。
13年目の今年の夏は、バテないでくださいよ、たくぞー!!