「桜」を想う時
父は認知症で85歳。母はため息つきながら「あーしんどあーしんど」って言わないと動けないめんどくさがりな頑張り屋さん80歳。二人には3人の息子がいる。3人とも筋ジストロフィーという病だ。筋肉が徐々に弱くなっていく遺伝性の病気だ。3人とも頭のいい息子で教員免許を持っている。家の二階で塾をしていて座ったまま乗れるエレベーターに乗って移動する。63歳長男は自力ではもう動けないので父の作った台車の様な車いすで移動する。61歳次男は腕の力でにじって移動できる。58歳三男は腕の力で立ち上がり、つたい歩ける。床にはビニールテープで『』が三色。赤の『は長男の座る場所。黄色は次男、緑は三男。初めて来るヘルパーさんに説明せんでもわかるようにしてある。家の床、カラフルなビニールテープがいっぱい張ってある。生活の知恵ね。父の様子を見に行き、母の愚痴を聞きに通っていたら、息子たちと仲良くなった。三人が育てているたまごっち(なつかしいでしょ)のうんこのお世話も任されるようになった。おかあさんにおいしいカレーの作り方をを教えてもらい、百均アイテムを上手に使い介助なしで食べる息子たちに学んだことだらけだった。やろうと思えば、やる気さえあれば、どんな道具もどんな人も「味方」になるんだ。春、彼らの家に向かう道に立派な桜が咲き誇っていた。ちょっと冷たい風を感じながら、そうだ!みんなで桜見に行こうって思ってね、玄関入るなり「桜満開!!行こうよー!たまごっちも持って行くからさ、桜の下でコーヒー飲もうよ。きれいだよー花吹雪」って大きな声で誘った。居間に入ると三人の息子がいて本を読んだりテレビを見たり、塾生の答案を見ていたりした。「行こう!!」って言ってくれると100%思っていた‥ら。「行かん」と言う返事。めんどくさいのか?桜に興味ないのか?いちいち車いす乗って‥とか迷惑かけるって思ってる?っとか考えながら「行こうよぉ~めっちゃくちゃきれいで、今日が絶対見ごろやっって‼」ごり押ししてみた。「もぉ!!お前はうるさいなぁ」とか言いながら行ってくれる‥はずだった。「行かんよ」兄ちゃんもちい兄ちゃんも三男君も顔見合わせて笑って「行かんよ」って言うのよ。「何でよぉ~なんでなんよー!!!!見たくないの?桜満開、見たくないん?」って言ったらね。にいちゃんが言った。「見られたくない。」‥‥‥‥‥‥‥‥…。
その気持ちは、わからんかった。「人の多いとこ行ったらな、桜より僕らの方が珍しくてゆっくり桜楽しまれんようになるからな、これでも気い使ってんやぞ」って笑ってね。「桜が散ったら行こうな。ありがとうな。葉桜もなかなかええよ。緑が目にいたいくらい綺麗や」って言うねん。毎年葉桜見てんのかな。なんか悔しい。何かなんか‥桜が咲くと想う悔しい気持ち。