一匹だけ 山本雅矢という狼
初めて会った時のことは、全く覚えていない。24歳の雅矢がどうやってここに来たか・・というと珍しく派遣社員だった。楽しそうだったのか頑張り屋さんだったのかいい男だったのか全く覚えていない。ただ、彼は喉ちんこの奥の奥まで見えるくらい大きな口をあけて笑った。前の道にまで響き渡るくらい大きな声で笑った。その笑い声に惚れて職員にならないかい?とナンパして今年12年目の夏を迎えた。
だが、この男ほどてこずった奴はいない。とにかく起きない。
え!起きない!?って思うでしょ?
起こさないと起きないという20代後半の彼はそこそこ起きられない自分に愛想をつかし遅刻しても平静を装った態度を見せた。眠ったら起きられないので、起き続けて仕事に来た。
ただ、愚痴を言えない。文句も言えない。言い訳もできない。頼ることもできない。辛いと泣くこともできない。難儀な性格の彼は一人で耐えたといえば聞こえがいいけど。たぶん、あのふんわりした誰にも頼らないかっこつけた優しい性格が愛されていた。
雅矢が来ない!!ってなると家まで起こしに行く職員、遅刻しては絶対いけない日は何人もが電話で起こす日々。組織としては甘えさせてしまった。迷惑かけられてるのに、皆が雅矢を支える。
そう!なんて不思議な子!!
人の魅力って見た目でも優しさでも誠実さでも包容力でも経済力でもないのかもしれん。雅矢がなぜ愛され続けたか?検証する気にもならんつまらん話で恐縮ですぅ。
36歳この男 力関係に縛られず自分の描く介護人生を生きたいと願って実践しようとしている。世の中は組織があり上下がある。嫌だろうがそぐわなかろうが「はいわかりました」と言わなければならない時があり悪くもないのに「ごめんなさい」と言わなければならない時もある。また、謝りたいのに胸を張って淡々と説明しなければならない時もあり、折れるくらい歯を食いしばって涙を止める時もある。そんな時々に、心から誰かに頼ることが出来る人になってほしい。「助けてくれー」って早くこいつ言わないかなぁって心待ちにしている。
それが、一度もない。
さみしい事よ。
雅矢は今日も喉ちんこの奥まで見える大きい口開けて笑っている。
愛され続ける一匹狼君、一人でニンニク山ほど食べるのはやめなさい、エレベーターが臭いのよ!!(笑)