三十三話 一人暮らしを謳歌する107歳 デイ編

知り合った時は、101歳。奥様99歳。二人合わせて200歳だよって言ってたなぁ。100歳で奥様他界。奥様は、ご主人が一緒じゃないとデイサービスにも来ないような ご主人に頼りっぱなしの生活だったからさ・・亡くなった時きっとご主人は寂しくてそう長くは一人生活できないかもねって思っていた。
それがなかなか‥そうでもなくて。大阪市内に彼女いるって言うし、まだまだ現役でエッチできるって言うし、北向のお尻触るし、エッチさせてって抱き着いてくるし・・なんせスケベなんよ。じいちゃんが言うと笑えるんだけど。ちっともいやらしくない。

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ある日、バイクで風を切っていると。。わたしがよ。前からじいちゃんが背広着て歩いてくる。姿勢もいいし、デートみたいなおしゃれなスーツ姿。どこ行くのか‥めちゃくちゃ気になってÚターンして後を追った。
ん?スタバに入って行くの?105歳・・おしゃれ~♡
そっと付いて行き後ろに並ぶ・・じいちゃんは「コーヒー一杯ください」としっかり言った。が・・スタバにはコーヒーというメニューはないんだよ。なんちゃらマキアートとかさ、おしゃれネームがついてるやん。じいちゃんはどのコーヒーか聞かれるけど「コーヒー、ミルクもお砂糖も自分で入れます」と答える。話かみ合わず笑ってる場合じゃないからその話に入って行くと「あんた、何してるんや。コーヒー買うてやろ。この子の分もコーヒーして!」と千円札をカウンターに置いた。
すったもんだの末・・ミルクコーヒーらしきものを購入、私たちはテラスでゆっくり飲んだ。何でも自分でできるしめちゃくちゃお家もきれいにしてるけど、ただ耳が遠い。ほぼ聞こえていない。自分の言いたい事だけ言う。そこがまた面白いし可愛い!でも なかなか会話にはならん。隣の家の人と話している感じで叫ぶとようやく聞き取ってくれる。
あれから二回誕生日を超え107歳になって未だ一人暮らしで綺麗に暮らしているなんてすごない?すっばらしいでしょ。何したって、どんなスケベだって全然許す!じいちゃんなら何でもありで許しちゃう。

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その107歳のじいちゃんが、この夏の終わり食べなくなった・・。心配したご家族は検査のため入院させた。案の定 毎日毎日帰る帰ると駄々をこね続けた。病院側は「お願い!帰って!!!」ってなったわけ。107歳だよ、どんな大きな病気だってもう治療できん。まして、熱もないししんどくもない。ただ、食べないだけだからね。でもさ、家族やケアマネや周りの人は皆 一人暮らしが不安でならん。心配で心配で仕方ない。そりゃそう。マンションの二階、階段も、ね、一人で出かけるのも、ね。どこでどうなってもいい!なんて覚悟は本人しかできん。ほっとけないじゃない、ね。わかるわかる!
で、家族がもう怖いからって施設に入所させようとした。ケアマネも施設を探し、流れは施設入所に動いた。私は北向とある夜じいちゃんを訪ねた。もう眠っていたじいちゃんは、ちゃんとパジャマ着て、ベッドの足元にその日着ていたスラックスとシャツ、ベルトがきちんと畳んでおいてあった。そして「ここにおる。どこにもいかん。ここで死ぬ。ここにおる。ありがとうありがとう。家族が待ってるやろに来てくれて。もう帰れ」と繰り返し言った。じいちゃんの意思確認はできた!!
「ここにおる。ここで死ぬ」この覚悟の後押しをするため、北向と私は闘いを挑んだ。じいちゃんの意志を伝えるべく絶対誰にも負けない覚悟で!まずはじいちゃんの息子さんと娘さん。息子さんはじいちゃんの意志の固さに疲れてた。「何回危ないからって言うても、いやや。大丈夫や。心配ない。大丈夫や。ここにおる。」と手を合わせ「婆さんの仏壇守ってやらなあかん。」毎朝、手を合わせてる・・と言いながらお仏壇は固く二十扉で閉じられてほこりをかぶっていた。笑 もーうそばっか。それでも何が何でも自分の家で生きて、死にたいという思いは伝わった。じいちゃんは日に日に元気になり入院する前より食べるようにもなったし、夜そーっと見に行ってもちゃんとパジャマ着て洋服畳んで足元に置いて、机の上整頓して眠っている。流しにはいつもと同じお皿とお箸が洗い桶にあって、玄関には娘さんの字で「一人で出かけるな」とか「鍵をかけろ」とか107歳の十か条が貼り付けられている。何を書いたって言う事なんか聞かんけどね。マンションの二階の部屋の前には螺旋階段がある。普通の階段はちょっと先にあって、じいちゃんの部屋の前の螺旋階段は、たぶん避難用みたいな感じ。この螺旋階段を下りて50センチくらいの段を飛び降りて草むら抜けるとスーパーまでの近道になってるんだよね。手すりもないこの螺旋階段をじいちゃんは降りて行く。時にはすってん転んでめがねを割ってしまったりする。擦り傷も流血も「大丈夫や。」で終わる。お薬塗っていらん、すぐ直ると強がり続ける。でもね、この強がりが107歳の真の強さなんだわ。一人でこの家で生きて死ぬ、いつ死んでも怖い事なんか何もない。でも、まだ死なんけどね!!ってね。娘さんの息子さんはもう80歳で、私らの方が先逝くって、笑われへんわって、泣き笑い。なんか私らも泣き笑い。101歳から107歳までのお付き合いだけどね、どうにかじいちゃんの生きたいように死にたいように手伝いたい一心です。調子悪くなってきたらすぐにグループホームのショートステイにお泊りすることも伝え続け‥その度断られるけどね。なんならじいちゃんの家に泊まり込んでやろうと思ってるしね。絶対にじいちゃんが決めた生き方で最後まで一緒におる!!絶対ね。

夜そーっと行くとね。リビングだけマメ球ついててね、お湯のみにちょっとお茶残っててね、じいちゃんが今日も元気にここで生きてたんだってほっこりするん。いつもと同じ今日が終わり、いつもと同じ明日が来る。「いつもと同じ」ってなんて素敵な事やろね。じいちゃんのいつもがもうしばらくこのまま続いてくれますように。

「誕生日になったらしよ!」「108歳なったらその時考えるわ」今日も彩子はじいちゃんのエッチな誘いに答えながらお風呂場から大きな笑い声がする。「まだまだできる!!」ってさ。笑

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