流れゆく‥‥

七年前‥彼は28歳だった。
廊下の向こうから母を呼んだ。「おかあさん・・。」
母は「汚いおっさん、知らんけど。」とそっぽを向いた。
母は息子がわからなくなっていた。
その日から今日まで彼は母に会っていなかった。

35歳になった彼は叔父と叔母、弟君とやって来た。この七年の間に父を看取り生活も大きく変化したと聞いている。玄関の前で彼は私に深々と頭を下げた。何度も何度も‥‥。背中をポンと叩いて「元気にしてたの?心配してたよ。」と声をかけると七年前に見たことのある笑顔に戻った。

7年の間に母は、自分でご飯を食べることも、歩くことも、話すこともできなくなっている。彼はきっと愕然とした。最初はわからなくて母の前を通り過ぎたから‥。

「これからは毎週来ます‼‼‼‼」なんて息巻いちゃって。そんなにはいいのよ。忘れずいてくれてときどき母さんの顔見に行こうかなぁ‥くらいで十分だから。弟君は、そうしてる。忙しくて来れそうにない時は無理すんなって言ってるし、仕事が立て込んでる時は来月行きます❣母は元気ですか?ってLINEのやり取りしたりね。

20代の彼らが忘れてわからなくなっていく母をどんな思いで見ていたかと思うと胸が締め付けられる。イライラしただろうし、怒鳴っただろうし、あるいは帰らなかった時もあっただろうし、見ないふりもしただろうね。悲しかっただろうし辛かっただろうし諦めただろうし腐るよね。そして母には「汚いおっさん」と言われたら…。確かに彼は七年母をほったらかしにした、会いにも来ないし連絡しても出ない。母に会いに行ってると嘘をついて親戚をごまかしたりね。だめなことだけどもうね、そんなことどうでもいいや。彼は来たんだから。そして、また来ると笑顔で帰って行った。

お母さんは表情も変えないし、わずか眼を開けただけだったけど、それでもみんなの声は聞こえている。懐かしい息子たちの声が届いていると信じよう。

時は穏やかに流れゆく‥…素敵な時間でした。  感謝です。

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