四話 怖い!仕事辞めたい人続出!凶暴爺さん

特別養護老人ホームをクビになった爺さんが来た。クビの理由は 暴力と暴言。そして不眠。自分のベッドで絶対に寝ない。横になったことが無い。ずーっと職員の仮眠室の椅子に座っている。寝る時もそのまま寝る。動かすとサイレンのような猛獣のような声で叫び続ける。そして、近づくとグーで殴ってくる。何発も殴ってくる。アホーとか殴るぞとか向こう行け!とか叫びながら追いかけてくる。なもんで、大きな施設をクビになった。
決断するのにちょっと時間かかった。怖かったし、こんなうちみたいな小さなところで追いかけまわされて殴られたらみんな怖がって部屋から出てこなくなったりするかなぁ・・とかいろいろ妄想していたら2日程答えが出なかった。でも、うちみたいな弱小施設にお願いしに来てくれて、うちが断ったら・・きっと行くとこはもうないんだろうね。入院して、いっぱい薬飲んで寝たきりになってしまう人生なのか・・どこかに突破口はあるのかもしれんよね。探せ!私っ。なんとかやってみたいなぁ・・爺さんと仲良くなりたいなぁ・・と言ったら北向が「もう受けるってことやろ。受けていいよって言ってほしいんやろ。どうせ諦めないんやん。誰が言っても思ったようにしかしないくせに」と言い皆も頷いた。私ってそんな奴だと思われていたのかってショックだわ!みんなの意見を聞いて中立に動くのが私の長所だと思っていたのに。なんてこった!
でも、言われたことは当たってる。そうね、そうそう・・その爺さんを迷いなく受けた。
が、来た日から爺さんはベッドで寝た。なんでっ!!?ベッドでスヤスヤ寝た。前情報と違いますやん。大きい声も出すし、思いどうりにいかないと叫んだり力いっぱい殴ってきたりするけど・・思ってたのと違う。んーーーーどう違うかって言うとーーーーなんかねぇ、意味があるんだ。殴ることにも、大声出す事にも理由があった。その理由がわかるまでは何人かの職員はこんな怖いの続くんやったら辞めよかな、って言ってた。仕事に来るのが憂鬱だったなぁ。でもね、結果誰も辞めてないけどね。
爺さんは脳の病気で、なかなか言葉が出ないし、考えがまとまらない。だからいっぱい言われるとギャーってなる。ゆっくりだとできるのに抱き上げられたりすると止めろーってなる。自分で食べたいのに手伝われると殴っちゃう。で、なんでそんなことするのよ!!と職員と取っ組み合いの大喧嘩を繰り返すこと半年くらいかな。皆 爺さんが気弱で奥さん思いで一生懸命働いてきた人だということを身をもって知った。泣き虫で人見知りで心を開くのに時間がかかり、思っていることを言葉にするのが苦手な古き時代の男でした。爺さんの脳の障害は、「受け答えが出来ているのは奇跡ですよ。皆さんと会話になっているのが不思議です。本当に皆さんはこの方の言葉がわかるのですか?」と医師に聞かれた。私たちはみんなわかる。何が言いたいかじゃなくて、言っている言葉がわかる。確かに不明瞭だがちゃんと話している。ごめんなさいもありがとうも言ってくれる。「ごはんは?」と聞くと「大盛!」と笑いすぎて涙でくしゃくしゃになった顔で答える。毎日一緒にいる意味ってこういう事なんだよねぇ。ね。
他の人には何言ってんのか分からないらしいから・・だから爺さんは怒っちゃう。話してるだろうがーってイライラしちゃうんだろう。でももうそんなことで怒ることはない。ひとりで玄関のドアを開けて駐車場のぴいたこにたこ焼き買いに行く。

「コーラくれや」と言いビンのコーラを受け取り「120円」「ツケや」「ツケいくらたまってるか知ってんの?」「うひょひょ。知らんわ」という何気ない会話が爺さんは楽しくて仕方ない。コーラとたこ焼きを両手に持っておぼつかない足取りではあるが一人で帰ってくる。職員に「食べぇ」と配ってくれて半分以上こぼしながら瓶のコーラを口飲みする。皆に「「こぼれてんやん」「びちゃびちゃやん」と言われるたび溢し、笑うもんだからまた溢す。爺さんは自分のベッドで眠り、皆と日常を楽しめる優しい人になっていった。奇跡の脳を持ち、ちゃんと意思を伝えた。そうなるまでに精神科に入院したほうが良いのかと話し合ったことも何度もあるけど職員はみんな最終それを拒否した。もう少し、もう一回、この爺さんに賭けたいと私たちは何度も思った。何度も何度も思ってどんどん爺さんを好きになって行った。わたしは、めいの家の職員は最高にいい奴集団だと思う。怖がりながらも爺さんと対等に闘いを回避せず正面から向かっていった勇気が爺さんの言葉を聞き受けるきっかけになった。そしてみんなの「欲」のおかげ。みんな爺さんが何を言ってるのか知りたいと思った。なんで怒るのか、なんで殴るのか、なんで叫ぶのか、知りたい欲が私たちを結んだ。愛し合うには相手を知らなければ始まらない。
私たちは始まったのだ。勇気になり自信になり、愛になり信頼になった。
爺さんがかわいくて面白くてたまらん!!日々を過ごさせてもらった。

いくつになっても喧嘩できる相手がいることは、ほんとうに幸せな事。ひとりじゃ喧嘩できないもん、ね。
仲直りもできるんだよぉ!!素敵!!

 

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