人間やめますか?

精神薬の話をするね。私は介護士を始めた頃、精神薬、眠るための薬とか安定剤なんか 関わりと環境と私の力で飲まんでいいようにできるって思いあがっていた時期がある。「精神薬を飲まない、飲ませない事」がかっこいいような、プロの介護士の仕事・・的な?今も大いに後悔してる。しんどい思いをさせてしまっただろう係わった皆さんに謝りたい。どの仕事もそうだろうけど、介護士もね二、三年経って大体のこと覚えた上に緊急時に一人で対応できるようになって、ちょっと聞きかじって教科書とか読んで、介護福祉士試験に受かったり、後輩に色々教えるようになってきたら調子乗る!自分一人で世の中の高齢福祉回してるような、全員救えるような、私しかいない・・ような自信にみなぎる時期が来る。私も来ちゃった。こんな性格やから取り仕切っちゃった。眠れないなら少しお酒でも飲んでる方がずっといい、安定しないなら散歩しよう、非日常を作って目で耳で五感で楽しんでもらおう、そうしたら夜は寝て、お昼は充実して生きていけるっていろんなイベント企画して踊って歌って(これは今もやってんですけどね)あちこち出掛けて、職員は通常運転以外にめちゃくちゃ仕事増えちゃって・・でも一向に精神状態よくならない人がいる。なんなら徘徊酷くなったり、異食増えたり、逆に夜寝なくなって昼ぼーっとしてたり。でもうちょっと もうちょっとやってみよって・・自分勝手な事。ほんと勝手なことした。施設にはいろんな人が一緒に暮らしていて、家なら家族オッケーで許されることもなかなかそうはいかない事も多い。同じ時間にご飯食べてくれないと片付かないし、お風呂だって今入りたいって言われても次の勤務の職員来ないと対応できん。だからって今日は寝る前に入りたいし今日は午前中がいいとか‥その全部を聞き遂げようとしたら職員何人いるかしら?そしてその度、怒って暴れて大声出されたら、本人も私たちも疲弊する。認知症の母には「夕暮れ症候群」と呼ばれるものがあってね。知ってる?夕方になると、子供が帰ってくる、主人が帰ってくる・・ご飯の用意しなきゃ、家帰らなきゃ、とソワソワするのよ。もう帰りたい一心で私たちを投げ飛ばしてエレベーターに向かう人もいるし、さめざめと泣き崩れる人もいる。不安に思いながらぐっと眉の間に深いしわを寄せて拳を握り我慢している人もいる。どの人も、不安だらけで辛くて悲しい。なぜ帰れないのか、なぜこんな目にあっているのか、ここはどこであなたは誰?いくら説明しても抱きしめても一緒に泣いても、私たちはそれぞれの家族じゃない。屁のツッパリにもならん。

その不安を和らげることができるものの中に〔薬〕がある。とんがった気持ちが少しまあるくなるなら、楽ちんに生きられるなら、意地になって薬を否定する私の方が残酷だ。・・・と悟ったわけ。何年もかけてそう悟った。薬の飲みすぎで寝てばかりいる人や、よだれが止まらん人や、昨日まで立ち歩いていたのに動けなくなった人や、普通のご飯が食べられなくなった人、喋られなくなった人、意思がなくなった人・・「人間やめますか?」って薬やね、精神の薬の力、されど薬・・先生は「暴力あるんでしょ、何とかしてほしいんでしょ。」と言い「フワーっと不安なく生きていけるように?この人らしさ?どれがこの人らしさ?」ってなかなかうまく話がかみ合わないけど、そこそれぞれを知ってる私らが頑張るしかない。忘れていく自分、覚えていられない自分、何が何だか分からない中でどうやって不安なく笑顔で暮らせと言うのか・・。未だに答えなんか全く分からん。わからんままだけど、私たちは味方でいる。どんな辛い事があってもそばにいる。笑っている時も泣いている時も暴れてる時も大声出してる時も全部、ずっと味方だから。そして、やわらかく生きるために使えるものは何だって使おう。人間でいるために。最高の今日を過ごすために。

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三十四話 107歳 完